大判例

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大阪地方裁判所 昭和34年(ワ)5736号 判決 1964年6月19日

原告 巫阿淵

原告 巫幸恵

右両名訴訟代理人弁護士 大原篤

同 北逵悦雄

同 古川清箕

右訴訟復代理人弁護士 森田照夫

同 竹内勤

被告 神崎土地振興株式会社

右代表者代表取締役職務代行者 林藤之輔

右訴訟代理人弁護士 石井通洋

補助参加人 張寿郷

補助参加人 陳堯坤

右両名訴訟代理人弁護士 阿部甚吉

同 熊谷尚之

同 平山芳明

同 鬼追明夫

主文

被告会社の昭和三四年一一月二八日の臨時株主総会における「取締役巫阿淵を解任し、陳堯坤を取締役に選任する。」旨の決議は、存在しないことを確認する。

被告会社の右同日の取締役会における「張寿郷を代表取締役に選任する。」旨の決議は、存在しないことを確認する。

訴訟費用中、参加により生じた部分は補助参加人らの負担とし、その余の部分は被告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、本件株主総会決議及び取締役会決議不存在確認の請求は、原告が請求の原因として主張するところから判断すると、本件各決議が有効に存在して現在関係人に拘束力を有しているかの如き外見があるので、このことによる法律上の不安危険を一挙に解消するため、法律上有効な決議の存在しないこと(決議の無効なることと同一に帰する)の確定を求めるものであることは明らかである。確認の訴は権利又は法律関係の現在の存否を即時に確定する法律上の利益又は必要のある場合に許されるのを原則としているが、これは一般にそのような場合が確認判決による紛争の解決に最も適しているからである。しかし社団関係等において決議等に基づく法律関係に不安危険が現存し、これを一挙に画一的に解決するために有効適切であるときは、決議等の無効確認の訴、または、これと同一に帰する本件のような法律上有効な決議の不存在確認の訴も例外的に確認の利益あるものとして許されるものと解される。そして、本件の如き決議不存在確認請求訴訟の場合には、その趣旨において同一に帰する決議無効確認請求訴訟に関する商法二五二条の規定が類推適用せられる結果、同一〇九条の準用により、決議を不存在とする確定判決は第三者に対しても効力を有することとなる。従つてこのような第三者であるところの補助参加人らによる本件参加には民訴六二条が準用せられ、補助参加人が被参加人の訴訟行為に牴触する訴訟行為をすることが認められるところのいわゆる共同訴訟的補助参加の場合であると解せられる。このように解することは紛争の実質上の当事者が職務執行の停止を受け、訴訟が職務代行者によつて遂行せられている本件の如き場合には、特に意義があるものと考えられるのである。

二、被告会社が原告ら主張のような株式会社であり、原告巫阿淵がその設立当時より五〇〇株の、本件株主総会当時一、五〇〇株の株主であつて、原告巫幸恵がその取締役である事実は、当事者及び補助参加人ら間に争いがないところから、これを認めることができる。

三、そこで、まず、株主総会決議不存在確認の請求について判断する。

(一)  被告会社が原告ら主張の株主総会議事録を作成し、これにもとづいて原告ら主張のとおり取締役の変更登記がなされた事実は当事者及び補助参加人ら間に争いがないところからこれを認めることができる。

(二)  原告らは右株主総会は招集手続を欠くから不存在であると主張し、右招集のための取締役会が開かれておらず、株主に対する招集通知もなかつたことは被告及び補助参加人らも認めるところであり、これに反する証拠はない。よつて、右株主総会は全員出席総会として適法であるとの主張について判断をすすめることにする。

いわゆる全員出席総会が許されるかどうかについては争いのあるところであるが、株主総会に招集の手続を要するとした法の趣旨は、全株主に株主総会の議事及び議決に参加するための準備をした上で、これに出席する機会を与え、もつて株主の利益を保護しようとするところにあるから、その開催の日時場所とか方法が異常なものでない限り全株主が準備の機会を放棄する意味で開催に同意して現に出席した上株主総会を開き、決議が行われた場合にまで、右決議を無効あるいは取消しうべきものとする理由はなく、そのような決議も有効であると解する。

そこでまず、昭和三四年一一月二八日早朝、原告巫阿淵方で行われた被告及び補助参加人らが株主総会と主張する会合について考えるとつぎのとおりである。

1  右会合が行われるに至つた事情

≪証拠省略≫を総合すると、つぎの事実が認められる。

「原告巫阿淵は昭和二九年一一月六日営業用土地を購入するについて補助参加人張寿郷より四三五万円を受領し、大阪華銀からも融資を受けて土地の経営をしていたが、これを会社組織による経営とし大阪華銀の職員らと共に被告会社を設立して土地経営を続けて来た。昭和三四年四月大阪華銀側の被告会社株主は被告会社より手を引きその所有株式を譲渡することとなつたが、その後右四三五万円が土地経営の出資金なのか、貸付金なのかに関連して右譲受人が原告巫阿淵のみであるか、同原告及び補助参加人張寿郷の両名なのかについて争いが生じ、代表取締役の地位にあつた原告巫阿淵は同補助参加人を株主として取扱わず、自分一人で被告会社を経営し、会社所有の不動産を処分したりしたので両者の間に対立が生じ、同補助参加人はどうしても株主総会を開いて巫阿淵を解任しようと考えるに至り、同年一一月二八日早朝、原告らが外出しない間に原告ら宅を訪れて株主総会及び取締役会を開くことにした。」

2  原告ら宅に入る迄の状況

≪証拠省略≫によればつぎの事実が認められる。

「補助参加人張寿郷、被告会社設立当時からの五〇〇株の株主である蘇啓輝、原告巫阿淵とも親しかつた補助参加人陳堯坤、大阪弁護士会に所属し阿部甚吉法律事務所で執務する弁護士熊谷尚之及び同法律事務所事務員川口弘の五名は、同日午前七時半頃何等の予告もなく大阪市阿倍野区松崎町二丁目一一六番地の原告ら方に至り、陳堯坤が門前で『巫さん巫さん』と声をかけた。まだ就寝中であつた原告巫阿淵は寝巻のまま二階の窓から下を見下したところ、かねて知り合いの陳堯坤が自分を呼んでいるので洋服に着換えて階下に降り門を開いて同人を家の中に招じ入れたところ、それ迄姿の見えなかつた他の四名も(同原告が呼びかけられたとき他の四名が見えなかつたのは原告らの警戒を避けるため意識的に姿の見えないような別の場所にいたためか、偶然の結果であつたかを明確にできる証拠がない。)共に家の中に入つて来た。」

3  原告ら宅階下の座敷における会合

≪証拠省略≫によるとつぎの事実が認められる。

「右補助参加人ら五名は原告ら方階下六畳の間に座ると、まず、蘇啓輝が『巫さんがあまり無茶なことをするので皆に来て貰つて株主総会を開くことにした。』と発言した。原告巫阿淵は『張さんに金を借りていることは済まんと思つているが何も株主総会を開くことはないではないか、他の株主も招集していないし手続もできていないではないか』等と述べたが、蘇啓輝らはそれにとりあわず、同原告、補助参加人張寿郷、蘇啓輝を株主とし株主総会を開き議事を進めると主張し、同補助参加人を議長とすることとした。同人は『巫阿淵が被告会社財産を処分してその金を着服しているから解任したい。』と述べ、同原告はこれに対し『自分は何も悪いことをしていない。首切られることはない。第一、株主総会を開くこともない。』等々と述べ議論がなされたが、同補助参加人と蘇啓輝は同原告の取締役解任に賛成であつたのでその旨の議決があつたものとみなした。後任取締役については同原告は反対であつたが、補助参加人張寿郷、蘇啓輝はかねて相談していたとおり補助参加人陳堯坤を選任することとした。この頃原告巫幸恵もお茶を持つて座敷に入つて来た。熊谷弁護士は川口弘事務員に命じ、口述して本件株主総会議事録を筆録させた。原告巫幸恵は右議事録に署名を求められたがこれを拒否した。

4  以上のとおり認められる。証人張寿郷は原告巫阿淵は株主総会開催に異議を述べなかつた旨供述するが、同原告と張寿郷とは前記認定のとおり被告会社への経営参加について争いがあつて相当感情的にも対立しており、蘇啓輝も前示甲一七号証によると同年一一月二七日頃同原告を取締役より解任するための株主総会開催の請求をしていたのであるから、夜明け(同月二八日の日昇が午前六時半頃であることは当裁判所に顕著である)後わずかに一時間経過の早朝、しかも就寝中に突然訪ねられて、変則的な形で自らを解任するための株主総会を強行しようとされた場合、反対するのが通常であると思われるし、補助参加人らと利害を共通にし同原告と感情的に対立があるとみられる証人蘇啓輝でさえ当日のことについて「株主総会を開くという蘇啓輝の話に対し同原告は何か招集しておらんとか、なんとか言つていました。」旨供述しており証人川口弘も「巫さんは、張さんにはすまんけど、蘇さんからそのような株主総会を開けといわれる覚えはないといつていた。」旨供述しているのであつて、証人張寿郷の右供述はこれらの証拠に照らして信用できないし、その他本件全証拠によるも同原告が株主総会開催に同意した事実を認めることはできない。

なお原告らが補助参加人ら五名を家の中に招じ入れ、湯茶をすすめて自らが取締役を解任されることに反対の意見を述べていることは前記認定のとおりであるが、補助参加人らや蘇啓輝は以前からの知り合いであるから、その訪問を受けたときは、同行者があるときは一緒に家の中に招じ入れて湯茶をすすめるのは儀礼上普通のことであるし、反対意見を述べたのも、前記認定によれば株主総会の議事に参加するというよりは、自分を解任するような株主総会の開催に反対する趣旨のものであつたことが明らかであるから、これをもつて株主総会の開催に同意したものとすることはできない。

5  本件株主総会は代表取締役たる原告を解任するため、補助参加人らが熊谷弁護士らを伴つて予告もなく昭和三四年一一月二八日早朝の午前七時半に突然原告方を訪ねて開催したものであることは右認定のとおりであつて、その開催の方法も日時場所も被告会社の株主総会としてとうてい正常なものということができない。

また原告巫阿淵が、被告会社設立当時より五〇〇株の株主であり、本件株主総会当時少くとも一、五〇〇株の株主であつたことは前記のとおりである。

従つて、当時その余の株主が何びとであつたかの点に立入つて判断する迄もなく、同原告の同意なしに前記認定のようにして開催された本件株主総会は、成立(全員出席総会としても)しなかつたものというほかはないから、そこで行われた決議は法律上株主総会の決議と認めがたく、その効力を生ずるに由がない。

四、次に、取締役会決議不存在確認の請求について判断する。

その方式並に趣旨により真正に成立したものと認められる甲一号証によると、当時被告会社の取締役は原告巫阿淵(代表取締役)同巫幸恵と補助参加人張寿郷の三名であつたことが明らかである。補助参加人らは原告巫阿淵が右のとおり代表取締役に選任されていたことを争うのであるが、右認定をくつがえすに足る証拠はない。

そして、原告巫阿淵を取締役から解任し、補助参加人陳堯坤を取締役に選任する旨の本件株主総会の決議が法律上不存在であり、その効力を生じないことはさきに判示したとおりである。

被告及び補助参加人らの主張によれば本件取締役会の決議は原告巫幸恵及び補助参加人両名の三名によりなされたというのであるが、あらかじめ取締役会招集通知のなかつたことは争いがないところ、右通知があつたことを認めるに足る証拠もなく、取締役である原告巫阿淵がこれに出席しなかつたことは成立に争いがないところから真正に成立したものと認められる甲四号証、証人張寿郷の証言により明らかであるから、本件取締役会はいわゆる全員出席取締役会としての要件もそなえていない。従つて、そこで決議が行われたとしても法律上取締役会の決議があつたものとすることはできない。

五、結論

以上のとおりであるから、本件株主総会の決議及び取締役会の決議の不存在確認を求める原告らの第一次請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用については民訴八九条、九四条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 前田覚郎 裁判官 平田浩 裁判官井関正裕は転任のため署名押印できない。裁判長裁判官 前田覚郎)

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